Lichtung Criticism

ナンバユウキ|美学と批評|Twitter: @deinotaton|美学:lichtung.hatenablog.com

マルチエンティティーズ人類学:存在論的混淆種としての人類

マルチスピーシーズ人類学から発展して、複数の存在論的地位にある対象についての人類学を論じることができる。 それがマルチエンティティーズ人類学(multi-entities anthlopology)だ。 それは虚構的対象、フィクション、物語、ロボット、死者、幽霊、数的…

未来の哲学宣言

SFの物語を参加者とともにつくることで、未来のプロダクトやサービスの可能性や課題を対話するSFプロトタイピング。その仕事をしていると、いろいろな未来を人々とともに想像する。来てほしい未来や、どこか気味の悪い未来。 あるワークショップが終わったあ…

しくじりアートとアンスコム

note.com 銭清弘さんのこちらの記事を読んで、芸術作品を作り損ねることはあるのか悩んでいた。 そんな中、アンスコムの実践的知識論について書かれた次の論文を読み、電撃的に気づきを得た*1。 鴻浩介. (2017). アンスコムの実践的知識論. 哲学, 2017(68), …

ちいさな魔法:キリンジ「エイリアンズ」の歌詞を読む

「エイリアンズ」はちいさな魔法の歌だ*1。 エイリアン 元二人組兄弟ユニット、キリンジが2000年に発表したアルバム『3』におさめられている「エイリアンズ」は、昨年のんによるカヴァーが話題となったことで、それまで彼らの作品に触れることのなかった人々…

自己啓発するライトノベル『弱キャラ友崎くん』とゲームとしての人生

成長譚と自己啓発 『弱キャラ友崎くん』(屋久ユウキ著、ガガガ文庫、講談社、2016年〜)は自己啓発するライトノベルだ。 ライトノベルの基本形はビルトゥンクス・ロマンである。欠点のある主人公(異性愛男性)は、ヒロインと出会い、友情を育み、葛藤の中…

鹿乃・田中秀和『yuanfen』とめぐりあう縁

はじめに キュートさと冷たさが同時に響く声とやさしくも影のある歌詞によってリスナーを惹きつける、シンガーソングライター鹿乃(かの)、そして、挑戦的でしかしポップな楽曲とアレンジでアニメーションのテーマソングから劇伴、そしてキャラクターソング…

草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』と絶滅の意志

はじめに あなたは、最後のページに辿り着き、呆然としているだろうか。それとも、書店やネット上で表紙を見かけて、この本、草野原々による『大絶滅恐竜タイムウォーズ』を買うべきかどうかをまだ迷っているのだろうか。いずれのあなたもさいわいだ。前者の…

表現と行為:表現行為論、芸術と政治、芸術倫理学

はじめに 表現を用いて行為を行うとはどういうことか。本稿では、J・L・オースティンの『言語と行為』における言語行為論を拡張した「表現行為論」のスケッチを行う。表現行為論は、「発表行為」「発表内行為」「発表媒介行為」の三つの概念を軸に、芸術作品…

草野原々「幽世知能」:理解不能、切断、痛み

はじめに 草野原々のこの物語は、ひとびとの心を動かさない。そこには理解しかない。 それは小説としての失敗か。言いたいなら、言わせておけばいい。 それは小説としての成功か。わたしにはまだわからない。 物語的フィクションは、キャラクタとの情動的な…

聖地巡礼の美学

はじめに アニメーション作品の聖地巡礼とは何か。聖地巡礼はいかにして行われているのか。聖地巡礼はひとつの行為なのか、それとも、様々な聖地巡礼の行為がありうるのだろうか。 聖地巡礼を巡る問いは、様々な対象とトピックに関する問いを含んでいる。本…

作画崩壊の美学

はじめに DIESKEによる「作画崩壊の形式的な分析に向けたノート」は、「「作画崩壊」概念の実相を描きだすこと」を目指し、前半では、作画崩壊をめぐる言説を整理し、この概念がある作画を作画崩壊かあるいはそうでないかを分類するための「分類概念」として…

浦上・ケビン・ファミリー『芸術と治療』注意と分散

はじめに 浦上・ケビン・ファミリーは、作曲、編曲、演奏、エフェクト、歌唱まですべてをこなすソロユニットである。浦上の編曲はこれまでYouTube上にアップロードされており、その高度やリハーモナイズの才と音色の豊かさから一部のあいだで高い評価を得て…

質感旅行スケッチ

はじめに 「質感旅行」という言葉は急に目立って現れた。本稿はその概念を公式の質感旅行的鑑賞と非公式の質感旅行的鑑賞に区別し、聖地巡礼という行為との関係を整理する。 はじめに 経緯 公式/非公式の質感旅行 覚書 経緯 聖地巡礼と質感旅行についての言…

『ガールズ ラジオ デイズ』––––周波数を合わせて

はじめに 小説、ラジオ、アプリ––––複数のメディアで作品世界を作り上げる作品、「ガールズラジオデイズ」。 ガルラジ*1については短期間にいくつものブログ記事が書かれている(萌黄 2019; Nobu 2019; シノハラ 2019a, 2019b; 鶏七味 2019; yunaster 2019)…

【11/25 文学フリマ東京ク07・08】サークル紐育春秋『硝煙画報』第1号に『鳩羽つぐ』批評を寄稿しました

サークル紐育春秋さんにお誘いいただき、11/25、文学フリーマーケット東京[ク07・08]にて頒布予定のインディペンデントカルチャーマガジン『硝煙画報』第一号に批評を寄稿いたしました。 新条アカネと宝多六花がめじるし。かっこかわいい。 『硝煙画報』に…

Virtual YouTuber’s Three Bodies——Person, Persona, and Character

Introduction What is the Virtual YouTuber (hereafter VTuber)? Who are they? Is there any uniqueness as a culture? Does it need any academic account or not? Why are (mainly japanese) people attracted by them? In this essay, I will make conc…

『高い城のアムフォ』の虚構のリアリズム:虚実皮膜のオントロジィ

Abstract 『高い城のアムフォ』は、投稿動画と異世界語という形式を、物語世界を構成し、鑑賞者をその世界に組み込む要素として利用することで「リアルな虚構」をつくりだし、同時に、VTuberカテゴリのもとで人形劇を鑑賞させることによって、VTuberの身体の…

バーチャルYouTuberスタディーズ入門:コミュニケーション・ボディ・エコロジィ

はじめに 『ユリイカ』七月号 特集 バーチャルYouTuber 発売されました。 ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber作者: キズナアイ,届木ウカ,月ノ美兎,赤月ゆに,万楽えね,みゅみゅ,皇牙サキ,広田稔,じーえふ,海猫沢めろん,ばるぼら,さやわか,黒瀬陽平…

バーチャルユーチューバの三つの身体:パーソン・ペルソナ・キャラクタ

はじめに 2017年の終わりごろ、にわかに人々の耳目を驚かし、少しづつ人口に膾炙しはじめたバーチャルユーチューバ(VTuber)というものたちがいる。動画では、3Dあるいは2Dモデルのキャラクタが動き、企画やトークを行なっている。それらは、あらかじめ決め…

『鳩羽つぐ』の不明なカテゴリ:不明性の生成と系譜

概要 『鳩羽つぐ』という作品のうちのさまざまな表象の意味の考察にとどまらず、その作者の意図やその作品を取り巻く言説をも考察の対象とし、それらを分析美学の道具立てを用いて批評することで、この作品の特殊性を明らかにする。 上記の作業を通じて、『…